歯科疾患

ペットのお口、こんな見た目・様子の時はありませんか?

歯の見た目

  • 歯茎が腫れている
  • 歯がグラグラしている
  • 折れている歯がある
  • 歯茎が赤くなっている
  • 歯垢・歯石が付いている
  • 歯が変色している
  • 歯茎から膿や血が出る
  • 欠けている歯がある
  • 歯茎にできものがある

様子

  • 口がくさい
  • 前足などで口をかく
  • 片側だけあおっぱながでる
  • よだれがネバネバしている
  • 噛まない
  • 骨など硬いものをよく与える
  • ドライマウス
  • 食べにくそうに食べる
  • ケージバイト(ケージをかじる)
  • 口を気にしている
  • 口の周りがいつも汚れている
  • 歯磨きができない
  • 咀嚼回数がムダに多い
  • くしゃみをする
  • 手が汚れている

顔面の見た目

  • 噛み合わせが悪い
  • 顔が左右不対称
  • 目の下や鼻が腫れている

歯磨きをさせない、口周りを触られるのが嫌いな子は、口腔疾患に気付きにくいです。
こんな症状が見受けられましたら、お早めにご来院ください

口腔疾患は恐ろしい

日本では、10本以上の未処置の虫歯があることを口腔崩壊と言います。
口が、崩壊するんです。
口は、生命を維持するための栄養の入り口であり、歯はその消化の第1歩です。
2歳までの70%のネコと80%の犬は何らかの歯周病になっているとの報告があります。
口臭は、歯周病細菌が産生するガスの匂いであり、歯垢がまったく付いていなくても、歯周ポケットに細菌が存在する場合もあります。
ペットの口腔内で細菌培養していると考えたら、気持ち悪いですよね。
また、歯茎の炎症巣から血管内に細菌が入り込み、腎不全や心内膜炎を引き起こしたり、他の感染性疾患を助長することもあります。

口腔疾患

歯周病(歯肉炎&歯周炎)

歯周病の発症と進行には、その子の口腔環境と生体防御機構が関わってきます。
野生動物では、その食糧となる動物を捕食する際に外皮などの強靭な繊維を摂食するために歯石が付着しにくくなっていますが、ペットは噛まずに食べることのできる食事やストレス、寿命が伸びたことにより歯周病が多く発生します。

症状

歯茎が赤い、口臭がする、歯垢歯石がついている、痛がる、歯磨きで出血する、口周りが汚れる など

歯周病の発生と進行

まず歯の表面にプラークバイオフィルムが形成されます。このプラークには500種類以上、1mgのプラークにつき10億個の細菌が存在します。
歯周組織の破壊=歯周炎を引き起こす歯周病原性細菌は、毒素や組織破壊酵素を産生します。歯垢が石灰化して歯石に変化するのは、臨床的には2〜3日と言われています。歯周病原性細菌は、有害物質を産生し続けます。動物自身は炎症を起こすことで、これに対抗しようとします。それにより、歯周ポケットがだんだんと深くなり、最終的には歯が抜けてしまうことも少なくありません。また、根尖周囲病巣、歯髄炎、口腔鼻腔瘻、歯瘻、歯周病性下顎骨折などの顎顔面疾患を引き起こすこともあります。要は、歯の周りの骨がとけて、なくなり、それにより口と鼻がつながって穴が開いてしまったり、あごが折れたりしてしまうこともあるのです。

歯周病の進行に関連するリスク因子

トイ種(超小型犬)、ミニチュア・シュナウザー、マルチーズ、サイトハウンド、ソマリ、アビシニアン、糖尿病や免疫不全などの病気、不正咬合や歯そのものの奇形、ドライマウスや食事内容、遊びもリスク因子として関連することがあります。

歯周病と全身性疾患

歯周病は局所の感染症とも言えますが、心臓病や腎不全、肝炎などが犬の歯周病に関連して認められたとの報告があります。

顔面の骨を溶かす疾患(根尖周囲病巣、口腔鼻腔瘻、歯瘻)

歯周炎が進行して、歯の根っこにまで炎症が及ぶと、その周囲の骨も溶かされて、そこに膿(ウミ)たまり、腫れたり赤くなったりします。これを放置すると、鼻腔内や口の中の他の部位に穴があきます。顔面の変形や骨折を引き起こすこともあります。

症状

くしゃみ、鼻水、鼻血(口腔鼻腔瘻)、頬や鼻、下顎などが腫れる、目やにや結膜の充血など(根尖周囲病巣)、顔面周囲の皮膚に炎症を起こしたり排膿する(外歯瘻)

遺残乳歯、不正咬合

歯の交換期を過ぎたにもかかわらず、乳歯が残っていることを遺残乳歯と言います。特に、多く見られるのは、小型犬の犬歯です。
犬や猫の歯の生え変わりは、生後約6ヶ月で完了します。通常、永久歯が萌出し始めて2週間しても、その部位の乳歯の動揺がない場合は、乳歯遺残となります。
本犬猫は痛くもかゆくもないですが、放置すると不正咬合の原因となり、歯周病を起こしやすくなりますので、抜歯が必要です。
当院では、基本的には、避妊・去勢手術とは別に行います。

破折・エナメル質形成不全・う歯・噛みつき

硬いものを噛んだりすることで、歯が折れたり欠けてしまうことがあります。犬用のおやつとして一般的な蹄などを噛んで、欠けたりすることもあります。欠けた部分には、歯石が沈着しやすくのちに歯周炎を引き起こしたり、痛みが生じたりする場合があります。破折したところから細菌が入り込み、歯根の先端の部分に膿が溜まる根尖周囲膿瘍を引き起こすことがあります。まれですが虫歯ができることがあります。

治療
  • 折れて歯髄(神経)が露出している場合、齲歯→抜歯または根管治療
  • 折れているが、歯髄(神経)が露出していない場合→レジンによる修復
  • 噛みつき→歯冠切除(人への咬傷を軽減)

歯の吸収病巣

猫に多く見られ、かつては猫破歯細胞性吸収病巣と呼ばれていました。
その名の通り、破歯細胞という歯を壊し溶かしてしまう細胞が歯を吸収し、吸収された部位には肉芽が増殖するので、出血しやすく、痛みを伴い、進行するにしたがい歯が抜けたように見えることがあります。
軽度の状態で発見して、吸収された部分を‘埋める’治療をしても進行してしまうことから、今は抜歯が推奨されます。
猫の下顎第3前臼歯に見られることが多いです。犬にも見られることがあります。

猫の歯肉口内炎・犬の慢性潰瘍性口内炎

口腔後部(頬の内側から奥の方)の粘膜が強い炎症を起こし、真っ赤になり、野苺状に腫れます。
何よりも痛みが強く、よだれや食事をする時に不快感があるため、食べ物を口からこぼしたり、硬いものが食べられない、口をひっかくような動作が見られます。
お薬で、この炎症や痛みをコントロールすることは一生にわたり、副作用やさらなる進行もあるため、治療には全臼歯抜歯または全顎抜歯が推奨されます。

顎骨折

歯周病が原因での顎骨折では、歯周病の治療を行います。病因となっている歯は抜歯します。
固定に使えそうな歯または支持組織が残っている場合にはそれを利用して固定を行います。
骨折は、骨折端を合わせて固定することで、約1ヶ月で癒合してきます。
顎は食するために動き、また、通常の内固定が困難であるため、その治癒が難しいことがあります。場合によっては胃瘻を設置して治していく場合もあります。

口腔内腫瘍

歯周疾患が存在するとその免疫刺激により、腫瘍ができやすくなったりします。口腔内にできる腫瘍は骨に浸潤するような悪性のものができることが多いため、普段からの口腔内ケアが最善策となります。骨に浸潤した腫瘍の場合、顎切除を行うことになったり、切除しきれなかったり、その部位に感染が起きたり、リンパ節への転移も発生することから予後が非常に悪いです。
基本的に腫瘍科への転科となります。

唾液腺の疾患

犬や猫には4つの大唾液線があり、そこから分泌される唾液はそれぞれ導管と呼ばれる管を通って、口腔内の開口部より分泌されます。しかし、この唾液腺の導管が損傷あるいは何かの原因により詰まってしまうと、唾液が分泌されなくなり、唾液腺が大きくなります。これを、唾液瘤といい、外科的処置が必要になることがあります。

無麻酔歯石除去について

無麻酔での処置は禁忌です。いくら歯の表面だけをきれいにしても、歯周病の予防や治療にはなりません。最も重要なことは、歯周病が活発な部位である歯肉ポケットや歯周ポケットの歯垢・歯石を除去することなのです。
無麻酔では、その処置ができないばかりか、処置に伴い出血したり動物が嫌がり損傷したりすることがあります。表面だけが清掃されて、見た目はきれいになりますが、根っこの部分はどんどん病状が進行して、気づいたときには下顎骨折してしまうこともあります。
無麻酔歯石除去は、一部の動物病院やトリミングサロンでも行われていることがあります。そういった場所の処置でも無麻酔で歯石を除去することは禁忌とされており、獣医師法に抵触することさえあります。